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牛が拓いた斎藤牧場

牛が拓いた斎藤牧場
(北海道旭川市)
DATE: 2003.10.16→19

棚の本を整理していた時に出て来た数冊の漫画『牛のおっぱい』
久しぶりに斉藤晶さんの顔を思い出した。
昔書いた原稿を改めてアップさせて頂きます。
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〜〜〜〜〜〜〜〜

今晩はこのジャガイモを蒸かしてジャガバター...。
小さな車に4人乗り込み、車一杯の食料を抱え、ゴツンゴツンとサスペンション
の鈍い音をたてながら、ナビの指示に従い目的地の斎藤牧場に向かった。
ナビでは表示のない道を携帯で確認しつつ、ようやく目的地の牧場に辿り
着いた。途中、研修施設となっているログハウスと化学物質過敏症患者の
為の研修施設を通り過ぎ、我々の宿となる教会に着いた。

 
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旭川バプテスト教会。確かに外観からは一見教会のようである。
が、しかし….
この敷地にあるこの教会を含めた全ての建物は、殆どがそれぞれが勝手に建て
最初は頻繁に利用されるが、結局はこの牧場に管理を託されたものばかりだと
いう。かなり年代ものの教会の中に入る。
いきなり入口の床がふわり...根太が朽ちているようである。
それよりもなによりも床一杯の黒い点々...。よく見るとカメムシ...?
でもこちらにいるものよりも一回り小さく臭いも少ないようであるが...??
それにしてもこの数...??
これは神経質な人なら耐えられないだろう。
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ふと隣を見るとスタッフは絶句...。周りの環境を見る余裕もなく、いつ使われたも
のか解らない食器を早速熱湯消毒している。

この牧場主である「斎藤晶さん」に、お会いする。
本の写真どうりの穏やかな笑顔のおじいちゃん。
ここ北海道ではどうも我々の住む広島に比べて日の入りが1時間あまり早い事に気
づく、4時近くなるともう暗くなってくるのである。

その前に、どうもこの場の儀式(?)のひとつと言ってもいいであろう晶さん運転
の四駆での牧場探索に連れて行ってもらえる事になった。
 
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この牧場は他の牧場と全く違っている。何が違うというと、まず、この牧場んはあ
らゆる所に石や木が混在していているのだ。
牧場というよりも大きな山の公園といった具合である。 
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大抵の牧場はまず、全ての木を切り倒し、ブルトーザーでデコボコの山を整地
する。今まで生えていた雑草も木の根っこも全て根こそぎ掘り起こし、そこに
肥料と牧草のタネを撒くのである。
ゆえにまるでゴルフ場のような風景となる。勿論他の雑草が生えないように農薬も
投入する。でもここ斎藤牧場の風景は私が今まで国内外知っているどの牧場風景と
も違っているものであった。
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まず先発隊として我々4人が車に乗り込む。足下には新聞のチラシやお菓子の袋が
散らばっている。「ゴミが足下に...??」と騒ぐと「どうせ、土でドロドロになる
んだから、こうしていたら、捨てるのに惜しくないだろ?」といとも当たり前のよ
うに返答が返る。思わず絶句...。
 
 
牧場の中を晶さんの四駆は走る。いきなり、美しい風景の一山越えた谷間に3〜4
台の不法投棄らしき車が現れる。
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「こんな所にまで不法投棄されるなんて...」と怒りが込み上げてきた。
ところが、晶さんは「見てごらん?」とその内の一台のKトラックを指された。
なんとそのトラックの荷台にはビニールの養生シートが敷かれ、その中には山から
引かれた水が溜まっている。
「ここはね、牛達の水飲み場なんだよ。お金がないから、なんでも利用するんだ」
どうもここに散乱している車は晶さんが意図的に置かれたものらしかった..。
いきなり、ここでも私の持っている概念がいかに固定化されたものであったかを感
じさせられた。

だが、この時はまだ、心の何処かで自分の中の美意識が抵抗していた。
谷間から丘の上に登っていった。丘から見る雄大な景色よりも先に、私の目にはも
っと奥にあった廻りの木に比べると随分年数の経っているらしき巨木に目が
行った。きっとこの辺りを守っている長老のような木なのであろう。
まず、その長老の木に挨拶をした。
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その丘から見る景色はなかなかのものである。車を降り立ち、晶さんが語る「ここ
の牧草はね、クローバーが一杯生えているだろう?よその所では考えられないんだ
よ」
このクローバーが春にはこの牧草を真っ白な花で一杯にするという。
 
 
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「僕は教養もなければ、お金もなかったんだ。だからこそ、こんなにきれいな牧場を
作る事ができたんだよ。下手にお金があると大切な物が見えなくなってしまう気がす
るんだ。
実は僕も昔この空いている山に大金をはたいてエゾ松を植林した事もあったんだ。
 
ところが、いくらここに植林してもすぐ松枯れで枯れてしまって...。
結局そのままで放置していたら、こんなに素晴らしい広葉樹林になってしまったん
だよ。今は松よりも広葉樹の方が価値がある時代になってしまったよ。
あそこに見える放置されているあの森林も、牛の道を造ってやって牛を放牧したら
、こんなに素晴らしい場所に変わるんだけどね。

日本中の森林がお金をかけずに公園に様変わりする事ができるんだよ。
勉強ばっかりやってるひ弱な子供達をここで放牧したら、みんな逞しくなるよ~!」
と目を細めて笑った。
車は2山3山と、ある時は前の見えない斜面を..。デコボコ道を..。駆け抜けた。
当初は道らしき道は感じられなかった牧場であるが、どうも晶さんにはきちんと
どのコースが一番安全で確実な所であるか、充分すぎる程把握されているもの
らしかった。
 
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「ここは私の庭だからね。何処に何の木があって、どうなっているかはぜ~んぶ解っ
てるんだ」と落ち着いたものである。
我々がみんなの待つ教会に帰った頃はもうすでに日が沈む直前であった。
どうも一番きれいに見える時間帯に我々は行ったようである。夕飯まで時間がある
ので、散歩する事にした。
ふと見ると我々メンバーの数人が点々と思い思いに歩き座っているが、なんとその内
殆どの者が携帯片手に話し込んでいるではないか?それぞれがこの場においてもいろ
いろなしがらみを引きずっている様子が自然の中でおもしろい不協和音を奏でて
いる。・・・という私もポケットの中には携帯が...。

ひとりで散歩している所を晶さんに誘われ、隣のログハウスにふたりで入った。
ここは教会とはうって変わって快適そのものである。シュンシュンとストーブにかけ
てあるやかんの沸騰し音がする。
 

このログはあるログメーカーのショールームとして建てられていたものをここに移設
したものだという。今はそれぞれのオーナーもこの地はめったに訪れないため、必然
的に管理と運用を斎藤さんに任されたという。
教会を含め、この牧場の中に建てられた建築物は、全て他の人が勝手に建てたものば
かりである。そのお陰で我々もこうして来れる訳である。
「こんなに素晴らしい場所を自分だけで独り占めにするとバチが当たるよ。だからみ
んなに自由に使ってほしいんだ。」この晶さんのお話しも私ひとりで聞くにはもった
いない話しばかりである。故に、今から私はレポーターに徹する事にした。

「元々僕は9人兄弟の7番目でね。本当は次男がこの地に開拓者として入る予定だった
んだけど、何故か19歳になったばかりの僕が入る事になってね。
当時はひとり7町5反の割り当てがったんだよ。 でも僕はバカで知恵がなかった
から、一番貧乏くじを引かされてね。
その中でも一番条件悪いどうしようもない土地が与えられたんだ。
とてもとても生きていくに厳しい状況でね。でも結局頭の良いやつはみ~んなここを
見限って出ていってしまった。そんなみんなが見限った土地をバカな僕は買ってね、
13町の山になってしまったんだ。最後はやけっぱちになってね。
でもどうもそのやけっぱちが良かったんだね。そのお陰で大切な事に気づいたんだよ。
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牛の生きる牧場なら、牛自身で牧場を作ればいいって...。
人間はその道を作ってやるだけでいい..。
牧草の種を蒔けばお腹をすかせた牛はどんな草も食べるし、どんどん草を食べると草
は根を横に張り、次に生えてくる草は柔らかい小さい草だけになっていくんだ。
牛が踏んで、その捲いた牧草の種を土に埋めてくれるしね。
もし人間の手でこれだけの仕事をすると、もの凄い大金がいるよね。
でも牛はなにひとつ文句も言わないだで、おまけに山から沢山のお乳を流して
くれる。こんな有り難い事はないよね。
なんでも人間の計画通り、思い通りになるなんて事はないよ。でも心配しなくてもい
いんだよ。
全てはうまくできてるもんだから...。
今まで随分人にも騙されたし、いじめられもしたけど、それらは自分自身で気づく為
にぜ~んぶ必要な事だったんだね。
今は本当に感謝しているんだよ。自然が神様であり仏様なんだよ。
へたにお金を持つと大きな勘違いをしたりね。高学歴だったりすると、いかに要領よ
く生きるかって事ばかりしてしまうんだ。
そうなると自然が見えなくなってしまんだよ。もっとも僕はバカだからなんでもすぐ
忘れてしまうだよ。
だからこそ、いじめられても、恥を掻いても全てプラスに考えられるんだ。

なんでも人のせいにして棚の上に上げていたら、大切なものが見えなくなってしまう
よ。100%自分を解放してやるといろいろな物が見えてくるよ。

全く何もないと思っていたこの山が実はここには全てがあったんだよ。その事に気づ
く事で始まるんだ。
ちょっと価値観を変えてみてごらん。何が大切か見えてくるよ。
そうそう、とぼけるって事も大切な事なんだよ。ここでは多くは語らないんだ。
ひとりひとりがここに来て、それぞれが何かを感じてくれる、それだけでいいんだ
よね。」


この牧場では安価な飼料は普通の牧場の30%ぐらいしか与えない。その分お腹をす
かせた牛達
は貪欲に草を求めて、牧場中を探し求める。
普通は今日はこの丘と行った具合に人間が牛を誘導するのだが、ここでは牛達が勝手
に今日はこの山というように自分達で移動する。
人間本意ではなく、自然というフィールドの中で動物本能のままに移動して
いくのだ。お乳もよその牧場のようにお乳を搾らず、30%しか搾らない。その分、
牛も長生きするという。ここの牧場の牛達は12~15年生きる。今、乳牛の寿命は
人間の勝手で7~8年しか生きられないのだ。そんな話しをしていると・・・
86歳になる元情報部員だったという自称へんなオジサン。と、我々のリーダーである
先生がこの場に加わった。
でもきっとみんな心配しているよね。

慌てて教会に戻り、札幌で調達した蟹と鍋で豪華な夕食をした。
が、なによりも一番美味しく感じた物は、何よりも斎藤牧場の畑で獲れたかぼちゃを
牧場牛乳だけで炊いたものと、今朝、畑で調達したじゃがいも.....。
今まで味わったどのものよりも美味しく感じた。
 
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思ったよりも居心地の良い布団で寝ることができた。
(ただ、時々カメムシが布団に入り込み身体中をゴソゴゾはい回るのさえ気にならな
ければだが...。)
朝、6時半..いつもなら考えられない時間に私は起き、朝もやの中を散歩した。
昨日、車で訪れた山の中腹まで登って行った。
朝霧の中でトラックの水飲み場をゆっくり眺め、昨日挨拶した長老の木のある丘に
登った。
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大きな木の下に丁度いい具合の切り株の椅子を見つけ、そこに座る事にした。
遠く目の前には一台の青い使い古しのトラックが置かれている。
今朝は不思議にこの景色の中で違和感を覚えなかった。
是非、この丘で朝日を拝みたいと思って登ってみたものの、その願いは全く叶い
そうもない。
でもこのひとり時間を少し楽しみたくなった。

目を閉じた….。今まで体験した事のない様々な音が聞こえてくる。
一体この音はどこから聞こえてくるのだろう?
ふと目を開けるとその音は頭上の葉っぱが揺れる音であったり、鳥達のさえずり
であったり....。
でもどうも聞こえてくるのはそれら目に見えるものだけではないのかもしれない。
と、ふと思った。

随分長い間座っていた思いがした。身体が冷え切っていた。
ふと心細くなってきた私は元来た道を足早に駆け下りた。何処からか沢山の鳥達
の鳴き声がした。思わずその場所に近づいた。
きっと沢山の実があるのかもしれない。
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様々に違った鳥達が合唱している。その森の中を近道をしよう横切った。
トラックの後をそって下に降りて行った。昨日まで雨だった性で道はドロドロに
ぬかるんでいる。ズボンまでがドロドロになっていく。
途中で自分がどうも道を間違えて歩いている事に気がついた。
でも、そのままタイヤの後を歩いた。しばらく歩くと目の前に牛舎らしきものが
見えてきた。
牛がでないように張ってある鉄線をスボンが破れないように注意しながら飛び越
え、牛舎に向かった。
想像以上に、本当にお粗末な牛舎である。今時こんな牛舎は珍しいかも
しれない。一応、番犬らしく、突然の訪問者に暫く吠えていたものの、その訪問
者が知り合いだと知ると、なつっこく近寄ってくる。
 
丁度一服されていた晶さんの息子さんと共に、犬を相手にゆったりとした時間を
過ごした。
ここでは時間の流れが違う。
普段生活している時間とここで過ごす時間が同じ時の流れであるとは信じがたい
位、ゆったりと充実した時間流れる。約2時間の朝の散歩をした。

取れ立ての牛乳やヨーグルトは格別である。
朝食を終えた我々はカメラ班として晶さんの弟さんのガイドの元、山の探索に
出掛けた。
昨日乗れなかったメンバーは晶さんの車で山を登って行った。
 

広島ではまだ、紅葉は早いのであるが、ここ北海道では紅葉のピークは終わり、
最後の見納めの時期である。
紅葉した木の葉が風で舞う。歩いて山を登ると昨日は気がつかなかった風景が
見えてくる。

「ほら、これがマタタビの実だよ。」手にした実は、これがネコが興奮するあ
のマタタビとは想像もつかない程柔らかい実で食べると甘酸っぱい味がした。
確かにここは宝物の山の様である。ドングリの木を始め、沢山の実のなる木が
ある。
山葡萄も沢山あった。タネが大きいものの思ったよりも甘く、私はタネごと
ムシャムシャほおばった。
途中で車で山を登っていた他のメンバーと合流した。「車の中から焼酎.焼酎?」
と声がする。
 

一体何事と思いきや、なんとその道すがらに今度は人間の水飲み場(?)らしき
ものがあり、その中にペットボトルが浮かんでいる。なんとその中には焼酎が入
っているのだ。
木にはコップ酒のコップが掛けてある。そのコップで焼酎を山水で割って飲むら
しい。
「人間にもガソリンがいるからな?!」
両手にビール缶を持って目を細めて晶さんが上から降りてきた。
どうももうひとつ秘密の水飲み場があったらしい..。
 
我々は無心になってビール片手に木の実採りをした。
もう少し下がった所に、コクワの実のなる木があった。
高い所にあるスルスルと仲間の仁君がひとり木に登った。
さすが、縄文人。こんな時はいつも役に立つ。彼にはこんな自然がなによりも
似合っている。木に登り揺る。
 
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すると、コクワの実がポトポトと落ちてくる。その落ちたコクワを口にした。
なんとも言い難い..そう、丁度熟れたキュウイのような味がする。
「おいし~!!」思わず貪ってしまう。
見かけと偉い大違いである。
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これを最初に口にした人はどんなに感動した事であろうか?沢山の収穫物を
抱えて教会に戻った。
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午後からは地元の人を含めてミーティングの予定であった。
早速その収穫した実を隣のログハウスの下にあシャベルに紅葉した葉っぱを
敷き、きれいに飾ってお迎えした。
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それぞれの思いは違えど、この牧場を大切に思い、少しでもこの場が必要な
方々に提供していきたいという思いは繋がっていた。

ここにいるとみんなが自然体になれる。
本来の自分に戻れるのかもしれない。そんな思いが横切った。

最終日の朝、どうしても朝日が見たくて5時半に起きた。が、..またまた雲隠
れされてしまった。
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いつか、きっと朝日をこの場所で見るぞ...と次回に期待。
帰る前にお土産にお願いしていた牛乳を取り牛舎まで行った。そこには2人若
い女性がいた。2人とも関東の都会育ちである。
斎藤牧場の本を見てここを訪研修しているという。ふたりとも将来農業をした
いと思って来ているのではなく、なんとなく、ここにいるようである。
彼女らの側に牛が横たわり、その横に犬が寝そべる。 
「ここで牛をこんなに近くにいて、危なくないのかしら?」と訪ねると、どう
もここにいる犬は小さい頃一度は牛に踏まれてケガをするようである。
でも一度その洗礼を受けているからこそ、ここで牛の上で昼寝もし、共に共存
できるのようである。
帰りに「お土産..」と目の前にここでは大切な冬の食料である、かぼちゃを頂
いた。
その思いが伝わり、思わず胸が熱くなった。

「春にはね、山菜が美味しいんだよ?!」
晶さんの嬉しそうな笑顔が妙に懐かしい。

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by necowash | 2009-06-22 17:00 | 斉藤牧場(旭川)